冒 険 空 想 小 説
魔法騎士レイアース外伝
ナ イ ト メ ア
広間を出たランティスは、回廊を歩いていた。しばらく真っ直ぐ歩いた後、途中
を折れて進み入ると、そこは屋内でありながらも、豊かに樹々の繁っている部屋で
あった。
その部屋のほぼ中央には噴水があり、光をあびて、きらきらときらめく水は澄み
わたり、そのまわりは涼気が素晴らしく心地よい。その噴水の縁に、ランティスが
腰掛けると、周囲の樹々から彼目掛けて、まるで現れるのを待っていたかのように
はばたき降りてくる、美しい色彩の羽毛を持つ小鳥たち。
その小鳥たちを、腕に、肩に、とまらせている彼の表情は、いつもと変わらずに
感情が現れることはなく。その夜空の色をした瞳を見る限りでは、彼の心がいずれ
の所にあるのかを、判断出来得る者は、このセフィーロにはいないであろう。常に
周囲から人を遠ざけ、否、人から離れようとする姿が、なにかしらもの悲しく映る
のは、気のせいだけであろうか。
指先にとまった、真っ赤な小鳥を、顔に近づける。その小鳥を見つてめる瞳が、
小さく優しげに変化した。何かを心の内で、語りかけているのであろうか。もしも
ラファーガやカルディナが、この現場に居合わせたのならば、こんな表情も出来る
のだ、ということに、ひどく驚いたことであろう。
「・・・・・ぅ・・・・・・」
遠くで誰かが、何者かを呼ぶ声がする。それはだんだんと、近づいてくるようで
少しずつはっきりと聞こえるようになってきた。
「ランティスぅ・・ランティスぅ」
声はおそらく、彼の耳にまで達しているとは思われるが、本当に聞こえていない
のか、それとも全く意に介していないのか、いらえを返しはしなかった。
部屋の入り口を、大きな蝶のようなものがひらひらと通過しかかり、はたと止ま
った。部屋の中の様子を伺っているようである。
「ランティス、ここにいたの」
声は確かに、蝶の方から聞こえてきた。はたして今までの呼び声は、この蝶から
発せられていたのか。その蝶は、またひらひらとランティスに向かって舞ってくる。
それは蝶などではなかった。体長30cmほどの女性の身体に、透き通った4枚
の羽根を持つ、妖精であった。名はプリメーラといい、以前に非常に危険な場面を
ランティスによって助けられ、それ以降、彼につきまとうようになった、と知られ
ているがのだが、どの程度の危険だったのかは、本人たちしか知らないようだ。
「ランティスぅ、ねえ聞いてよ、ランティスぅ」
ランティスはまるで、余人などいないかのように、じっとしている。実際の所は
常にこういう歯車の噛み合わぬ状況で、いつもプリメーラがきゃんきゃん一方的に
喋り続けているので、彼女はそんなランティスの態度も気にせずに、頬をふくらま
せながら、話を続けた。
「あの、ほえほえ顔ったら、ひっどいのよぉ」
そういいながら、ランティスの肩に座ろうとしたプリメーラは、突如振り向いた
ランティスに驚き、ふわりと後ずさった。
「モコナ・・・が?」
「う・・・うん」
怒られる訳ではないのだとわかり、ほっとしたプリメーラは、再度肩に降り座り
話を続ける。
「あの、ほえほえ顔ったら、あたしが朝の散歩をしているところを、後ろから突然
飛び乗ってきて、潰したのよ」
プリメーラは、耳まで赤くして怒っている。
「・・・それだけか」
彼女は首を横に、ふるふると振って続けた。
「それでね、う〜〜〜んっと、身振りだけだから、良くわからなかったんだけれど
え〜と、『光が大人になった。ランティスは何処にいる?』って、多分言いたか
ったんだと思う」
ランティスは眉をひそめる。おそらくは、その意味することを、考えているので
あろう。
「それでね、私が知らないって言ったら」
プリメーラは目を細めて、しかめっ面をつくる。
「こ〜んな顔して考え込んでて、しばらくしたら、西の門の方へ向かって、ぴょん
ぴょんいっちゃったわ」
ランティスには、既にこの辺りの話は、耳に入ってはいなかった。
(光が大人になったことが、俺に何の関係がある───────)
はっとして、顔を上げる。
(アリスト症・・・エメロード姫・・・そして、そうか!!)
弾かれるように立ち上がる。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ」
プリメーラは突然のことに対応出来ず、ランティスの肩から落とされ、くるくる
と回転しながら、噴水の中に落ちた。
ランティスはそれに気づかず、
「ザガート!」
と、短くつぶやき、駆け出す。
「もぉ、なにするのよ」
ほうほうの体で、水の中からはい上がってきたプリメーラは、きょろきょろと
辺りを見回す。
「ランティスは何処に行ったのよ!も〜う、羽根が濡れてちゃ飛べないじゃない」
仕方なさそうに、噴水の縁に、ちょこんと座り込む。羽根は重そうに垂れていて
髪の先からは、水のしずくが、ひっきりなしに滴り落ちていた。
辺りには人の気配はなく静かである。鳥のさえずりと、噴水の水が跳ねる音しか
聞こえてこない。
プリメーラが、突然天井を仰ぎ見、叫んだ
「ランティスの、ばかあ!!」
To be Continued