冒 険 空 想 小 説
魔法騎士レイアース外伝
ナ イ ト メ ア
プレセアの胸にすがりついて泣きじゃくる光、そしてその身体を優しく、慈しむ
ように抱き締めるプレセア。
どれほどの不安が、光のその小さな胸のうちにわだかまっていたのだろう。その
不安と、そして孤独さとが、さらなる未知の恐怖を相乗的に倍加させていたのかも
知れない。その暗く濁った澱を、涙という形に変えて、流しきってしまうのには
長い、長い時間が必要であった。
いったいどれ暗いの時間が経ったのであろうか。しゃくりあげていた光の呼吸が
少しずつ落ち着いてゆき、2・3度の深呼吸を繰り返した後、光は弱々しく頭を
上げた。
「ありがとう、プレセア」
光は涙で少し痛む目を細めながらつぶやいた。その瞳は赤く充血し、心持ち瞼も
はれぼったい。
「落ち着いた?」
光は小さくうなずく。
「どうして・・・身体の事がわかったんだ?」
プレセアは無言で光を促し、ベッドの縁に並んで腰をかけてから答える。
「昨夜あなたと話をしたから・・・ね。実はね、こういうことはたまにあるのよ。
ううん、病気じゃ無いわ。光は、クレフがあの外見で745才だって知っている
わよね。セフィーロでは外見と実際の年齢は必ずしも一致しないわ。自分の心で
決定出来るからね。でも、まれに、まだ心が出来上がらない年頃に、特に女の子
に多いんだけど、自分の意志に関係無く、突然大人の身体になってしまうことが
あるの。『アリスト症』と呼ばれているわ。まだ心が成長し切っていない時期、
大人と子供の中間点といっていいかしら、そんな時に大人になりたいと強く願う
と発症するといわれているの。昨日あなたは『自分のことを子供』といっていた。
それは裏を返せば、大人になりたいという願いの現れ。だから私はあなたが朝食
に現れなかった時に、もしかして、と思ったの。でも、セフィーロの人ではない
光に、アリスト症が現れるというのは、少し驚きね」
プレセアの話をじっと聞き入っていた光が、また少し不安気な表情をする。
「私ずっとこのままなのかな」
「クレフのところに行きましょう。クレフがお薬を用意してくださるはずよ」
「本当?治るんだね」
光の顔にぱっと明るいものが広がった。しかしすぐに戸惑いを表情を見せる。
「みんなの所へ・・・いくの?・・・恥ずかしいな」
「皆、心配しているわよ。光は皆に愛されてるんだから」
光は、はにかんでうつむく。
「で、でもこの身体じゃ、制服は着れないし」
「そこで、私が用意してきたものが、役に立つというものね」
プレセアは得意そうに言い、左手に抱えたままの布包みを開いた。中からは、
一揃えの衣服が現れた。
「私のものだけど、多分大丈夫ね。さあ、着替えましょう」
光は、寝着を脱ぎ捨て、プレセアから服を受取り、身に付け始める。黒い光沢の
あるタンクトップは下着を兼ね、その上に重ねて着る上着は鮮やかな赤色で衿と袖
に銀糸で模様が縫いとられている。ボタンは無く、腰を黒い透けるサッシュで縛り
余りは右側に垂れ下げる。スカートは上着と同色の膝上までのタイトミニで裾には
これにも銀糸で一回り模様の縫いとりがある。そしてくるぶしまでの皮の編み上げ
サンダルを履くと、プレセアはポケットから赤い光玉のついたネックレスを出して
光の首にかける。髪はいつものように編まず、流したままであった。
「私より似合うみたいね」
上着を整え、サッシュの結び目を調整しながら、満足そうにいった。
「プレセア」
「なに?」
「・・・少し胸がきつい」
「ちょっと複雑な心境ね」
プレセアは苦笑する。
「ちょっと、恥ずかしいな」
うつむき、少し頬を染めて呟く光に、
「大丈夫、素敵よ」
と、プレセアは力強く言い切った。その後に、何かを探すように辺りを見回し
はじめる。
「光、モコナはどこ?」
「え・・・私はずっとベッドの中に潜り込んでいたから・・・」
「自分でどこかに出ていったみたいね」
誰より光を心配するはずなのに、と、プレセアは思いつつも光を安心させるため
にそう言った。
「さあ、いきましょう。皆、とても心配している筈よ、特に海はね」
二人は部屋から出て、皆の待つ広間へ向かって歩き出す。その途中で光が唐突に
問いかけた。
「見かけと実際の年齢が違うっていってたけど、プレセア、本当は幾つなの?」
プレセアは、形の良い眉を寄せて考え込む。光は慌てて、取り繕おうとした。
「あ、いや、別に無理に教えて欲しいって訳じゃなくって・・・」
「光だけには教えてあげるわ」
プレセアは笑いながらそういって、他には誰もいないのに、光の耳に唇を寄せる。
「私は本当はね・・・・・・・」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
光は驚きの声を上げる。
「誰にもいっちゃ駄目よ、特に男性陣には絶対に、ね」
いたずらそうにそう言うと、右手の人指し指を唇に当て、左目を軽くつぶった。
To be Continued