冒 険 空 想 小 説
魔法騎士レイアース外伝
ナ イ ト メ ア
セフィーロに再び朝が訪れようとしていた。昨夜あれほど猛威をふるっていた
轟雷も姿を消し穏やかな朝である。とはいえ天空はいつもどうりのぶ厚い灰色の
雲に覆われ、以前のような陽光はそそいでくることはない。
セフィーロ城の一室で早くも動き始めた者がいた。ベッドの掛け布がもそと動き
白いまるでブイ・テックの実ような塊が這い出してきた。セフィーロ唯一の聖獣と
云われるモコナである。掛け布の中にはもう一つ大きな盛り上がりが有りベッドの
主はそちらであろう。室内を見渡しても調度は少なく、大きくゆったりしたベッド
と壁に掛けられている大きな全身が映せる姿見、そしてベッドの脇に置かれている
小さなテーブルぐらいである。
そのテーブルの上に、きちんと畳まれて置かれている衣服は異世界の物で、その
もののデザインからこの部屋は獅堂光の寝室であることは間違いは無いであろう。
ベッドから這い出してきたモコナは床に降り立ち、ゆっくりと一つ大きく伸びを
すると、それに大きなあくびを一つ続けた。更に左右に身体をねじり最後に2回、
3回と飛び跳ねると、なにやら満足そうな表情を浮かべ、ベッドの上ですうすうと
寝息を立てている光を見上げていた。暫くそのまま見つめていたモコナであったが
突然、いつもながらののほほん顔が何かを発見したのであろうか引き締まった。
似つかわしく無い俊敏な動作で再びベッドの上に登ったモコナは、光が頭まで
すっぽりと潜り込んでいる掛け布を少しずらし下げた。
「ぷうううぅぅぅぅぅ!!」
驚いたような声が室内に響きわたる。そして何をを思ったかモコナは横向きに
少し丸まって眠っている光の背中や肩を揺すって起こそうと努力を始めた。
「ぷぷぷぅ!ぷぷぷ!ぷぷぷぅ!!」
昨夜は寝付けず睡眠時間が充分でない光ではあったが、ややあって目を覚まし
まどろみながら背中のモコナに向かって身体を反転させた。
「ん・・・おはよう、モコナ」
「ぷぷぅぷぅぷぅ」
しきりに飛び跳ねながら光に何かを訴えようと努力を続ける。光はゆっくりと
上体を起こしてモコナをのぞき込む。
「どうしたんだ、モコナ」
モコナはその問に行動を持って返答した。光の手首を両手でしっかりと掴むと
小さな身体全てを使って2度3度と後ろに引っ張る。そして手を離して、ついて
こいといわんばかりにベッドから飛び降り、壁の姿見の方へ跳ねていく。
言葉は通じずともモコナの意図を理解した光は、怪訝そうな表情をしたまま
ベッドから降りようとした。床に足をつけた瞬間に僅かな違和感を光は感じた。
『いつもとなんか違う』
もとより半分寝ぼけているような状態であるのに加えて、今はモコナの要求に
応えることが考えることよりも優先されているので、違和感はすぐに頭の片隅に
追いやられ姿見の方へ歩いていった。
モコナは戻ってきて光の後ろに回り込みぐいぐいと姿見に向けて光を追いやる。
姿見に目を向けた瞬間、光は驚きの余り目を見開き、息をのみ言葉を失う。
「だ、誰?・・・わたし、私なのか?違う!!」
数秒間の硬直の後に発せられたこの悲痛な叫びをを本人理解していただろうか。
光はゆっくりと、いやいやをするように首を振った。鏡の中の影も寸分変わらぬ
動作を返す。光の両手がのろのろと動き、頬を手のひらで包み込む。その手が頬
を離れておずおずと胸を触り、そしてその両の腕を今度はまじまじと見つめた。
「わたし・・・だ・・・どう・・・し・・・て・・・」
鏡の中の、いや、光そのものの肢体は昨夜までとは違う、大人の、成熟した
女性のそれへと変貌を遂げていたのであった。
To be Continued